ライセンス契約

日本企業にとって中国は生産拠点としてもマーケットとしても重要な相手であり、何らかの形で中国へ技術展開をしている企業は増加しています。その中で、現地企業等と技術ライセンス契約を締結するケースも増えているようです。
しかし、中国のライセンス契約に関連する法律規定を十分理解してない上で契約を結ぶことで様々なリスクを招くことになります。このページでは中国おける技術ライセンス契約を結ぶ際のいくつかの注意点を参考としてまとめています。

「禁止」又は「制限」の技術に注意

中国の技術条例によると、「輸出入禁止技術」「輸出入制限技術」「輸出入自由技術」に分かれています。契約する前にまず「中国輸入禁止輸入制限技術目録」及び「中国輸出禁止輸出制限技術目録」で確認する必要があります。

輸出入禁止技術は中国に輸出入することができません。
輸出入制限技術は許可証による管理を行っているので、行政機関(国務院対外経済貿易主管部門)の許可を得ず、輸出入することはできません。(「技術輸出入管理条例」10、31条)
また、最初に輸出入申請をし、行政機関から「批准」を受けられますが、許可証ではなく許可意向書となります。(「技術輸出入管理条例」13、34条)許可意向書を取得した者は契約を締結することができ、その契約の副本等の書類をもってさらに許可証の申請をしなければなりません。(「技術輸出入管理条例」14、35条)(技術輸入の場合は上記の許可意向書及び許可証を同時に申請することができます。「技術輸出入管理条例」15条)
そして、行政機関から許可が下りると許可証が発行されますが、許可証が発行された日が当事者の契約の発効日となります。(「技術輸出入管理条例」16、36条)
また、契約内容に重大な変化があった場合は行政機関に届出をする必要があり、改めて許可証の申請手続きをする必要があります。契約終了後には、速やかに終了の旨を行政機関に届出をする必要があります。

ライセンス契約の登録

輸出入自由の技術に関しても「技術輸出入契約登録管理方法」6条によって、当事者間でライセンス契約を締結した後、原則として契約発効日から60日以内に行政機関に届出をしなければなりません(「技術輸出入管理条例」第21条)。
ただし、輸出入自由技術の契約は契約成立時から発効し、登録を要件としていません。契約の当事者は行政機関が発行した登録証をもって、為替、銀行、税関、通関等の手続きをすることができます。
また、契約内容に重大な変化があった場合は行政機関に届出をする必要があり、改めて登録手続きをする必要があります。契約終了後には、速やかに終了の旨を行政機関に届出をする必要があります。

技術達成できる目標を明記

中国「契約法」第349条及び「技術輸出入管理条例」24、25条によると、技術譲渡契約の譲渡者は自らが提供する技術の合法的な所有者である、若しくは譲渡または許諾の権利を有する者であることを保証し、提供できる技術が完全なものであり、誤りがなく、有効でかつ約定の目標に達成できることを保証しなければならない、とされています。つまり達成できる技術目標に関してはライセンサーが保証責任を負うため、技術達成できる目標を明記する必要があります。

技術ライセンス契約におけるライセンサーの保証責任

旧技術輸出入管理条例24条3項では「輸入技術契約の譲受人が契約の定めの通り譲渡人が提供した技術を使用した結果、他人の合法権益を侵害した場合、譲渡人が責任を負う」という強行規定が定められていましたが、2019年の改正にはこの条項が削除されました。
これにより、原則として権利者が瑕疵担保責任を負うが、当事者の間に別途に約定がある場合は約定によるという中国「契約法」第353条の任意規定の適用が可能になりました。

改良技術の成果の帰属問題

旧技術輸出入管理条例27には「技術輸入契約の有効期間内に、改良した技術は改良した側に帰属する。」と定めていましたが、2019年の法改正により削除されました。
これにより、中国契約法354条が適用され、当事者は相互利益の原則に基づき、技術譲渡契約の中で専利の実施、技術秘密の使用後の改良技術成果の共有方法を約定めることができます。約定がない若しくは不明確な場合、契約法61条(契約約定の不明確に関する救済)に基づいても確定できない場合には、一当事者が改良した技術成果について、他の各当事者は共有をすることができません。

技術者の派遣期間

ライセンサーが技術者を中国に派遣して技術指導を行う場合において、期間が特定の12ヵ月内に合計6ヵ月(183日)を超えるとき(複数の技術者が交代の場合には合計で6ヵ月を超える場合にも該当する)は、日中租税条約第5条5項により、ライセンサーが中国にPE(恒久的施設)を有すると認定され、PE課税の対象となる可能性があります。
対策としては、技術ライセンス契約において、中国における技術指導の内容と対価関係を明確にし、当該技術指導に関わらない部分の対価と区分し、PE課税の範囲を限定しておくことが考えられます。

原材料の指定

技術輸出入管理条例29条の原材料指定の制限等を含む技術輸入契約の中で定めてはいけない制限的な条項に関する規定は削除されました。(若しくは項目自体を削除しても構わない。)

製造物責任との関係

ライセンスした技術を用いて製作した製品は、ライセンサーの商標を付して販売する場合、中国の関係法規により、商標ライセンスをした外国企業も製造物責任を追及される対象となる可能性も否定できません。したがって、ライセンサーの商標を付して販売する場合には、より一層の品質維持を確保させるよう、契約書上においても何からの対策をとる(規定を設ける)ことが望ましいと考えられます。

技術と商標同時ライセンスする場合における営業税の免除

技術と商標の両方を同時にライセンスする場合、営業税の免税が受けられるのは技術ライセンスの対価部分のみとなります。技術ライセンスのロイヤリティと商標ライセンスのロイヤリティが明確に区分されないとき、または商標ライセンスのロイヤリティが明らかに低すぎるときは、「契約総価格」の50%を商標ライセンスのロイヤリティとして営業税が課されるとされています。

準拠法の選択しない場合

準拠法の選択がない場合、中国の国際私法によると、契約に最も密接な関連を有する国家の法律(最密接関連地法)となり(契約法第126条1項)、日本の国際私法(法例)によると、契約の成立及び効力については行為地法が準拠法となります。
中国で締結され、ライセンシーが中国企業であり、履行地も中国である場合は、中国法が最密接関連地法及び行為地法となる可能性が高くなります。 中国での技術ライセンス契約は、実務上基本となる「契約法」以外も「技術輸出入管理条例」など関連する法律を把握することが重要です。